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望郷ライン・センチュリーライド始末記 vol5

 

2015年8月30日(日)【望郷ライン・センチュリーライド当日-2】

 

◆川場についても股間の感覚は戻らなかった。

寒さで時間を気にする気力もi-Phoneを取り出す余裕も無く、

温かい山賊焼きを体に収めるだけで精一杯だった。

その時、ゴミ袋が目に入った。

体に巻けば少しは保温出来ると思ったので

休んでいた山賊焼きのスタッフにゴミ袋をもらえないか尋ねたが

既に使い切ってしまって未使用のゴミ袋は無かった。

すると、そのスタッフが

「とんかつ街道って沼田ですよね?」と聞いて来た。

「そうです。頑張ってます。」と言うと

「すげぇな!この雨じゃ大変だいね。これ使ってよ。」

とセブンイレブンの袋から弁当を出して袋を渡してくれた。

「ありがとうございます!助かります。」

「頑張って下さいね。」

地元に人に励まされると本当に嬉しい。

私は元気良く「ハイ!」と答えてジャージの下にビニール袋を巻き、復路第2ピークの雨乞い山を目指した。

 

川場の田園プラザを越えると長い直線の坂が見える。

名前の通り長い直線の周りは田園が広がっている。

登り始めると大きいカエルの死体が道に転がっていた。

体がしっかりしていたので自転車に轢かれたのではないと思うが

普段人の往来が少ない農道に2000人近くの自転車が走っている訳だから

かわいそうだがのんびり道路を渡っていたら轢かれても仕方ないと思った。

直線が終わるとちょっと下ってから本格的な山岳コースの登りが始まる。

往路第二ピークの雨乞い山までは約5Km、標高差約250m平均傾斜5%のダラダラと長い登りだ。

晴れていれば沼田の町が見える筈だがガスで何も見えない。

しばらく走ると路肩に白骨化した動物の遺体があった。

犬か狸だと思うが立派な背骨が雨にさらされて白く剥き出しになっていた。

雨で歪んで見えるサイコンを見ると心拍数は180回/分を超えていた。

普段から心拍数を180以上にするトレーニングは行なっているが疲労が蓄積して呼吸が苦しい。

何と無く「死」が隣り合わせにいる様な気がして少しケイデンスを下げたが

心拍数は直ぐには戻らない。

呼吸は又「はぁ。はぁ。」からデスメタルの様な「あ”ぁ。あ”ぁ。」に変っていた。

すると後ろからドグマ夫妻が追い付いて来た。

今度は呼吸を小さい「はぁ。はぁ」に変える余裕は無かった。

三峰の手前で追い越された筈だが・・・彼等は休憩をしっかり取ったのだろう。

望郷ラインを楽しむ様に追い越して行った。

しばらくすると前をい走る人が見えた。

徐々に近づいて来る。

近づいて来るって事は前の人の速度が落ちているのだ。

程無くして彼と並走する事になったので声を掛けた。

「きついですね。」

「いや~今年はきついですね。雨で前に進まないですよ。」

確かに彼の乗り方を見ると前乗りのトルク形なのでペダルを踏み込む度に若干後輪が滑る感じだった。

私も前乗りなので後輪にトラクションが掛からず少しスベル感じがしていたので

ポジションを変えると少し安定した。

「お互いに無理しない程度に頑張りましょう。」と言って追い越した。

彼の一言が良いヒントになって私もポジションを修正した。

そのお陰で股間の感覚も少し回復した感じだ。

しかし、また後ろから5人ほどの集団に抜かれた。

直ぐにダンシング(立ち漕ぎ)を入れて追いつき、しばらくの間この集団に付いて行った。

しかし、体力が持たず、しばらくすると置いてかれてしまった。

この状態を自転車乗りは「千切れてしまった。」と言うのだが、

体力や気力が切れてしまうと付いて行けなくなるので言い得ていると思う。

でも背中のとんかつ街道を見て頂いたのだから本望・・・。

と思いたいが追い越されると正直悔しい。

「もっと練習しなくっちゃ・・・。」

頭の中で水戸黄門のテーマソングが流れる。

♪人~生、楽ありゃ苦~もあるさぁ~♪

♪くじけりゃ誰かが先~に行く~♪

♪後~か~ら~来~た~の~に~追~い越さ~れぇ~♪

♪泣くのが嫌なら♪

♪さぁ、歩~けぇ~♪

毎年同じパターンだが歌詞が身に染みる。

第2ピークを過ぎると片品川までは下りだ。

下りは体が冷えるのでギアを上げてペダルを回してケイデンスを90まで回復した。

スピードは出たが見通しが良いので恐怖は無かった。

体温の上昇と引き換えに体力を消耗したが国道120号交差点でさっき追い越された集団に追いついた。

信号待ちをしている彼等の前に出て、又とんかつマークを見てもらった。

しかし、園原の手前の登りで又千切られてしまい、もうとんかつマークを見せる事は出来なかった。

 

 

◆13:30 往路の南郷の曲がり屋に到着。

往路と同様の笑顔で市役所の観光交流課の女神達が迎えてくれた。

疲れ切った状況なので女神の笑顔には心から癒される。

雨は霧雨に変わっていた。

饅頭を2個頂き、りんごジュースを2杯飲み、ストレッチをすると少し回復した。

「万代君は何分くらい前に出ましたか?」

女神に尋ねると

「45分くらい前に出ましたよ。」と言われ絶望した。

「もう追い付けない。」

昨年も、一昨年もここ南郷の曲がり屋で一緒になり、最後の峠で追い越したが今年は負けた。

でも嬉しかった。

彼はこの一年しっかり練習して、このセンチュリーライドに挑戦して来たのだ。

昔からそうだった。

何気なく涼しい顔をして私達を追い越して行く。

それが万代栄一郎と言う男だった。

数年前、彼が大病を患ったと聞いた時はショックだったが、

その病をものともせず又私を抜き去って行った。

やっぱり万代君は、すげぇ~奴だった。

きっと今頃最後の第1ピークに挑んでいるのだろう。

私も頑張らねば・・・。

友の頑張りが励みになる。

きっと人生も同様に身近に頑張っている友が居れば自分も努力出来て幸せな人生になるんじゃないかと思う。

そして自分が頑張っていれば私の周りに居る人も幸せになれるんじゃないかと思う。

だからもっと頑張らねば・・・。

少し休んで最後のピークを目指した。

 

往路は南郷の曲がり屋を出ると直ぐに登りが始まる。

最高到達点を目指す最後のステージは気力と体力の世界だ。

ちょっと気を抜くとケイデンスが下がり歩くより遅くなってしまう。

気が付くと私の前後には人が居なかった。

いつの間にか私一人、孤独な状況になっていた。

誰もとんかつマークを見てくれない。

ちょっと寂しくなった。

万代君はもう最後のピークを越えただろうか?

ショートコースの社長と佐藤氏と板橋氏の3人は

既にゴールしている筈だが寒さに凍えてないだろうか?

もし私を待っていてくれるのなら何とか暖を取っていて欲しいが・・・、

どうしているかな?

仲間と一緒にゴールしたかったが私だけ遅れている。

子供の頃から落ちこぼれで皆に迷惑ばかりだ。

皆に申し訳ないので私も早くゴールしたいが・・・

既に心拍数もケイデンスも体温も上がらなくなっていた。

もう体力の限界か・・・?

やっぱり自分は駄目か・・・。

標高の上昇に従い雨の量が増え視界が歪んだ。

気力が落ちるとケイデンスも落ちる。

止まってしまいそうになったが、今年は仲間が先にゴールで待っていてくれる。

そう思うと足を止める気にはなれなかった。

 

何とか大洞トンネル手前の給水所までたどり着き、トマトを頂いてストレッチする。

寒かったがトマトが美味かった。

ここから最後のピーク、最高到達点まで約2.5Km。

そこを過ぎれば後は下り坂だけだ。

ボトルの水は1本半を消費したがピークまでもう少しなので

無駄に重量を増やさない様、補給せずに再び走り出す。

少し休憩したので脚が軽くなっていたがトンネルを越えると、再び脚は重くなった。

呼吸もデスメタルになり、もう体温もケイデンスも上がらない。

心拍数を見る余裕も無く、呼吸をしても満たされる事は無く苦しい。

時々足の筋肉がピクピクと不穏な動きをする。

ここで無理をしたら足がつりそうだ。

兎に角ゆっくりでも良いから前に進もう。

一歩づつでも積み重ねれば確実に前に進むのだから。

ピークまで後2Kmを切った筈だが途方も無く長い距離に感じた。

 

しばらくすると後ろから元気な集団が迫って来た。

彼等はゼイゼイ言いながらも会話しながら登って来た。

こんな状況でも話が出来る余裕があるのは普段から一緒に走っている仲間なのだろう。

仲間と一緒に走ると不思議と精神的に楽に走れて走行中も会話が出来たりする。

逆に一人で走っていると気持ちの支えが無く、辛い気持ちが増幅してしまう事がある。

ロードレースはメンタルなスポーツでもあるのだ。

だから公式のロードレースではチームが一団となって

先頭の人が風避けになり交替しながら支えあって走るのだ。

追い越しながら誰かが

「とんかつか・・・ゴールしたら温かいもの食べたいよ。」

と言ってたので

「だったら、帰りにとんかつ食べてってよ!」

と言いたかったが体力的に余裕が無く声が出なかった。

私が下を向いて喘いでいる間に彼等の姿は

カーブの向こう側へ消えて行ってしまった。

苦しさがピークに達して顔が上げられない。

「前を見なくっちゃ。」

「顔を上げなくっちゃ。」

頑張ろうとする自分に反して

「足を止めてしまえ。楽になるぞ。」

「苦しいだろ。休んでしまえ。」

と誘惑する駄目な自分が居る。

「負けてたまるか!」

「顔を上げろ!」

自分に言い聞かせて頭を上げると最高到達点が見えた。

「もう少しだ!!」

自分を奮い立たせてギアを二つ上げて

最後の力を振り絞りダンシング(立ち漕ぎ)に切り替えた。

体が重くて足はつりそうだ。

でもこれが最後の登りだと思うと挑戦せずに居られなかった。

心拍数が上がり呼吸が激しくなる。

「もっと速く!

 仲間が待っているゴールへ行かなくっちゃ!」

もう足に感覚が無い。

酸素が足りず呼吸をしていても苦しい。

呼吸をする音だけが体の中を通過して行く感じだ。

でも自分に負けたくない。

ここで休んだら根性無しの駄目な自分に勝てない。

いつまで経っても皆に迷惑を掛けるだけの落ちこぼれだ。

腕で体を引き寄せてペダルに体重を乗せる様にダンシングすると腕の筋肉が痙攣した。

それでも負けたくない気持ちでペダルを踏むと声援が聞こえて来た。

「頑張れ!」

「もう少し!」

「最後だから頑張れ!」

さっき追い越して行った集団が最高到達点から声を掛けてくれている。

全く知らない人同士が励ましあい競い合う。

ロードレースはこれが楽しい。

「・・・ッシヤー!」

私は残り少ない力を振り絞って答えた。

最高到達点を通過する時、彼等が拍手で迎えてくれた。

達成感か?苦痛から解放される安心感か?

私は最高到達点を通過した事を覚えてない。

しかし、彼等が拍手してくれた事は、はっきりと覚えている。

応援してくれた彼等と一緒に休んでお互いに健闘を讃えたかったが、

私はそのまま通過して仲間が待っているゴールを目指した。

 

ここから先はゴールまで下り坂だ。

私は放心状態のまま下りへ突入した。

ブレーキを握るとスタート時と比べてかなり深く握っている事に気付いた。

おそらくブレークパッドが磨耗しているのだろう。

呼吸を整える様に体を起こし風の抵抗を最大に受けて出来るだけブレーキを握らない様にした。

例年なら沼田の町へ落ちて行く様な下り坂だが、今年は雨で沼田の街が見えない。

時速70Kmくらい出たと思うが早起き村までは見通しが良かったので恐怖は無かった。

もしろ恐怖や寒さより早く仲間が待っているゴールへ行きたい気持ちの方が先走っていたのかも知れない。

この下り坂で何人か追い越したが早起き村を過ぎると又、私の周りには誰も居なかった。

なだらかな坂が数キロ先まで見通せる。

景色が雨で牛乳を薄めた様に霞んでいた。

体力と気力が尽き思考が停止して全ての音が意識の中に入らなくなった。

ミルク色の誰も居ない静寂の赤城高原を私だけが時速40Km/hくらいで走っていた。

「センチュリーライドなんてやってなかったんじゃないか?」

と思うくらい穏やかな時間が流れ、風景がスローモーションの様に映る。

もう寒さも感じず、抜け殻になった自分の体が慣性に任せて走っている様だ。

このまま何かに激突しても何も感じないかも知れない。

そう思っていたところに沿道で旗を振っている人が見えた。

ぼ~っとした頭で確認するとゴールへの誘導員だった。

「帰ってきた!!」

一瞬で覚醒した。

誘導員の指示に従い道を直角に曲がると運動公園に入る登り坂が見えた。

この100mくらいの坂を上りきったらゴールだ。

ペダルを踏むと足に激痛が走った。

自分の意志と関係無く筋肉が収縮する。

筋肉が痙攣してツッてしまったのだ。

それでも早くゴールしたかったのでギアを上げダンシングすると

痙攣した筋肉が脚の中で鉄の棒の様に硬直した。

痛みをこらえてペダルを回す。

呼吸が苦しくなり天を仰ぐ様に頭を上げるとゴールが見えた。

力尽きサドルに座ると自転車は慣性に任せてノロノロとゴールに滑り込んだ。

ゴールには利根実業高校の学生が沢山居てハイタッチで迎えてくれた。

「お疲れ様~!」

右手を出してハイタッチに応えたが、ただ呼吸をするだけで

「ありがとう。」と声を出す余裕は無かった。

本当は、利根実業高校の学生達に伝えたかった。

それは、ゴールしたという単純な満足ではなく、

今年も私は私の限界に挑戦して、

精一杯自分の限界と向き合ったと、

そして昔の自分にハイタッチしている様に思えた学生達に

「ありがとう。」と伝えたかった。

それが体力の限界とやり遂げた感動でウルッとした為、伝えられなかったのだ。

既に56歳。

大昔だったら人生が終わっている歳だから残りの人生はおまけみたいなものだ。

残りの人生を慣性に任せて過ごしても、それなりに人生が終わるだろう。

しかし、歳だからと言い訳をせず自分の限界に挑戦していれば

いつまでも青春は続いているのだと思う。

 

ゴールからサッカーグランドへ降りゴールの手続きをしてスイカを頂くと

スイカの係りの人から

「川場でビニール袋を上げた方でしょ?」と声を掛けられた。

「あ!あの時の!」

私は思わず大きな声で叫んでしまった。

「あれからこっちに移動してスイカを切って待ってたんですよ。」

「ビニール袋のお蔭で命拾いしました。」

「それは良かった。寒いけどスイカ沢山食べて下さい。」(笑)

「ありがとう!スイカ美味いっす。寒いけど・・・。」(笑)

大声で笑うと又足がツッた。

 

ツッた足でウロウロしている私を板橋氏が迎えに来てくれた。

既に完走していた仲間はグランドの入口の東屋の様な場所で待っていたのだ。

「ごめん。遅くなっちゃって。」

「たかちゃん、おせぇよ。」(笑)

「いやぁ~寒くてさ。死ぬかと思ったよ。」(笑)

「でも、無事に完走出来て良かったよな~。」

その言葉に感慨深いものがあった。

それは自分が完走出来た事より皆が無事で完走出来た事への安堵と

何かを成し遂げた達成感や今日一日の激闘や女神達の癒しや

色々なものが思い出された。

ロードレースは孤独な戦いだが一つのコースで一つのゴールを目指して

仲間と一緒に戦うスポーツでもある。

一人で参加しても楽しいが仲間と一緒に参加するともっと楽しい。

人生の様に苦もあれば楽もある。それを一緒に共有するのだ。

エントリーしなければ、この満足感を味わう事は出来無い。

前へ前へ、休まずにペダルを回せば確実にゴールは近づく。

苦しくてもあきらめずに少しでも良いからペダルを回し続けよう。

瞬間的な情熱より、仲間との友情の様に無理せず自然体で続けて行こう。

私達は未だ発展途上なのだ。

 

「さて、打ち上げは「山の音」6時集合ね。」

「じゃ、一度解散して山の音で。」

「了解!俺風呂入ってから行くわ。」

「俺も。」

「お疲れ様!」

「お疲れ!」

懐石そば屋の「山の音」は同級生が経営している店だ。

人間関係と気持ちは子供の頃と変わらない。

違うのは、こうして今日の出来事を共有しながらお酒が飲める事くらいかも知れない。

私は人に恵まれている。

私の周りには良い人ばかりだ。

本当に感謝である。

そして又来年も仲間と共に望郷ライン・センチュリーライドに出場するだろう。

来年の自分が今年の自分に負けない様に過去の自分に挑戦するのだ。

来年は、もっと沢山の仲間が出場してくれると嬉しいのだが・・・。

最後までご拝読頂き、ありがとうございました。

/Numata NEXT Excellent Technologies株式会社

 金井孝行



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